ベルンハルト・フーバー醸造所 VS フランスワイン 1

数年前のお話です。

ドイツ・バーデンの生産者「ベルンハルト・フーバー醸造所」の現当主ユリアン・フーバー氏が来日され、その時に“フーバーのワインはどのくらい凄いのか”ということを検証するためのセミナーの進行役を担当しました。参加者は大阪ではそれなりに名の知られたソムリエ達(30代から40代)十数名。

私はもともとフランス料理のソムリエでしたし、フランスに住んでいたこともあり、完全にフランスワインに傾倒しております。その私が本当に素晴らしいと思うのがこのフーバー醸造所です。生産地域はバーデン、フランスから見るとアルザスのお隣、ドイツとしては南の比較的暖かい地域になります。

このフーバー醸造所のワインとフランスワインのそれぞれ価格的に近いもの(フランスワインの方が若干からかなり高め)を2種ブラインドテイスティングしてどう感じるのか、現当主ユリアン氏、出席したソムリエから印象を聞いてみようという企画です。平たく言えば、ベルンハルト・フーバー醸造所VSフランスワインという対決形式のテイスティング会、フランス側のワインは私が選びました。→当日のワインリストはオープンになっており、二種並んだどちらがフーバーでしょうというブラインド会でした。

始まる前に全てのワインを並べて写真を撮ったのですが、ユリアン氏が一言「ちょっと自信無いかも…」とボソっと。ボギュエのボンヌ・マールも並んでいますからね。

1:泡対決
A:ゾエミ・ド・スーザ・ブリュット・プレシューズ・グラン・クリュ ブラン・ド・ブラン NV
VS
B:フーバー・ブラン・ド・ブラン・ゼクト・ナトゥーア 2008

最初はシャンパーニュとゼクトのブラン・ド・ブラン対決でした。

ゾエミ・ド・スーザはグランクリュ、アヴィーズの超人気レコルタン”ド・スーザ”のエリック・ド・スーザ氏の娘・シャルロットさんが最高責任者を務める新しいシャンパーニュメゾンです。アヴィーズらしく、シャルドネのキリッと感が特徴的。

さて、進行役の私、いきなり失敗してしまうんです。会のスタートで場が緊張感に包まれていると感じたこともあり、突破口を開いていただこうと最初に参加者の中で最も重鎮クラスのソムリエさんにコメントを求めてしまいました。彼が外観から味わいまでしっかりと解説してくれたので、他の方の意見を聞くまでもなく、どちらがフーバーのゼクトか決まってしまいました。誰も彼には逆らえません(笑)。

ゼクトは2008年で約10年の熟成を経ているため、グラスから立ち上る泡が綺麗に一筋立ち登ります。一方のシャンパーニュはNVで瓶熟期間もこのゼクトほどではないためか、泡がまだ荒々しく、よりシュワっとした印象でした。

ゾエミ・ド・スーザの方が爽やかでアペリティフ向きではありますが、比べてテイスティングすると、この溶け込んだ泡の繊細さ、香りや味わいの奥深さから圧倒的にフーバーのゼクトに軍配があがりました。さらにゼクトはノンドゼです。(ゾエミ・ド・スーザはドザージュ7g/l )

さて、様々な意見を聞こうと思っていた矢先、いきなり正解をバシッと答えるであろう重鎮ソムリエを指名したことを反省し、次の対決から最初に「どちらのワインが好みですか」という質問に挙手してもらってからテイスティングコメントをいただくことにしました。



2:ピノ・ブラン対決
A:フーバー・ヴァイサーブルグンダー 2015
VS
B:ロベール・シュヴィヨン・ニュイ・サン・ジョルジュVV 2014(セパージュはピノ・ブラン)

この対決が一番面白かったんです。

ドイツでヴァイサーブルグンダーはフランスでいうピノ・ブランです。

ロベール・シュヴィヨンは私がニュイ・サン・ジョルジュで三本指に入る生産者として大好きなドメーヌです。本職は赤ワインですが、ブルゴーニュでも有数のピノ・ブランを造っています。

テイスティングをしていただいた後、最初に「どちらのワインが好みですか」ということで挙手をお願いしました。あくまで好みなので、どちらのワインがフーバーかということは問うておりません。

結果、ほぼ半々。

2名のソムリエにテイスティングコメントを述べていただき、Aがフーバーのワインであるとの解答をいただきました。そして、私もその答えに納得しましたので(私もどちらのワインがフーバーかは知らずブラインドで、そしてAがフーバーだと思った、では、当主のユリアン氏にコメントをいただこうと話を進めかけた瞬間に、先出の重鎮ソムリエが「僕は反対だと思うんですよねぇ。フーバーのヴァイサーブルグンダーはよりブルゴーニュに近いニュアンスがあるのでBの方がフーバーだと思います」と力強く答えられました。

”おっと、面白い展開じゃないの。ブラインドテイスティング対決なんだから、こうした反対意見が欲しかったのよ”と心の中で思いながら、さらに他の数名の方に意見を伺うと、意見がほぼ二つに割れました。

その後、改めてユリアン氏にコメントを求めると第一声が
「迷いました…」と。
この答えに一同びっくり。そして、ゆっくりと
「Aのワインがニュイ・サン・ジョルジュのピノ・ブランだと思う。そして、私はこのAのワインのように果実味と酸のバランスに優れた綺麗な白ワインを造りたい」とコメント。

ユリアン氏がこのように答えた以上、Aをフーバーとしたグループは分が悪そうです。重鎮ソムリエもBをフーバーだと言っていますし。

そして、正解発表…。

ジャーン!Aの方がフーバーのヴァイサーブルグンダーでした!

ユリアン氏が間違えて”こんな綺麗な白ワインを造りたい”って言った方が自分のワインだったというオチで、場内一同大いに盛り上がりました。

私はこの対決前からこのフーバーのヴァイサーブルグンダーを世界最高のピノ・ブランだと信じております。だから、どのような結果になっても私自身がブレることはないと思うのですが、まさかユリアン氏が自分のワインを間違えるとは思いもよりませんでした。正解の知った時の彼の驚きと目尻の下がった笑顔が忘れられません。





3:ピノ・ノワール対決 1
A:ジャン・グリヴォー ブルゴーニュ・ピノ・ノワール 2013
B:フーバー シュペートブルグンダー 2013

続いて赤ワイン、ピノ・ノワール対決です。

ブルゴーニュ好きには言わずと知れたヴォーヌ・ロマネの雄・ジャン・グリヴォー。ヴォーヌ・ロマネらしいふくよかで紫系のピノ・ノワールを醸します。

こちらも最初に好きな方を選んでいただくと、圧倒的にBに手が上がります。8割のソムリエがBが好みであると。

私のフーバーのシュペートブルグンダー(ピノ・ノワール)の印象は暖かみを感じるシャンボール・ミュジニーからヴォーヌ・ロマネです。決して直線的で赤く鉄っぽいジュヴレ・シャンベルタンではなく、またやや土っぽいコート・ド・ボーヌ的ではありません。洗練された赤いバラからスミレのイメージ、ふわっと宙を舞うミネラル。Bのワインからこの洗練されたピノ・ノワールのニュアンスを感じました。
一方でAのワインは残念ながらやや資質に欠けるように感じました。Bと比べるとどうしても荒さが目立ってしまう。ただ、軽くて飲みやすいという意味ではAに軍配があがるかもしれません。

そして、ふたを開けてみてもBがフーバーのシュペートブルグンダー。AはクラスとしてはACブルゴーニュですから贅沢を言えませんが、価格的にはブルゴーニュというブランドでもある為、フーバーよりも若干高めです。

そうなるとソムリエ的にどちらを取るかとなればどう考えてもフーバーを欲しいと思うわけです。そして、私は実際にお客様に「騙されたと思って飲んでみてください。ドイツですが、ブルゴーニュのピノ以上にブルゴーニュらしいですから」と言いながらお勧めしたりしております。だって、確かにドイツですが香り・味わいでは間違いないんですから。フーバーをご存じない方も、たいていこの洗練されたブルゴーニュっぽさにビックリされます。

ここはほぼ皆さんBがフーバーで正解でした。今回参加されたソムリエさんたちはフーバーのワインをよく知っていたようです。

続きます。

※表紙の写真はフーバー一家。残念ながら、ベルンハルトさん(父:写真右)が2014年6月、55歳の若さで永眠されました。この写真はWeingut Bernhard Huberの輸入元:ヘレンベルガー・ホーフさんのHPよりお借りしました。




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