ベルンハルト・フーバー醸造所 VS フランスワイン 2

引き続き、ベルンハルト・フーバー醸造所VSフランスワインのお話です。

4:シャルドネ対決
A:シャルドネ・フーバー 2014
B:ピュリニー・モンラッシェ エチエンヌ・ソゼ 2014

このフーバーのシャルドネ、私がここ数年で知ったフランス以外のシャルドネの中でダントツのナンバーワンでした。その時もブラインドテイスティングだったのですが、私は「本当に素晴らしい。コシュ・デュリを彷彿させる還元的なシュル・リーのスタイル。ただ、ムルソーでもピュリニーでもシャサーニュでもない…。こんなに還元的でかつ旨味と品のあるシャルドネを誰がどこで造っているのだろう…。納得いかないけど、あえて近いといえばムルソーで、こんなワインを造っている人がいるのかもしれない」と答えたことを今でもはっきりと覚えています。まさか、ドイツのシャルドネにここまで悩まされるとは。フーバーは大好きでしたが、その時までシャルドネが造られていることすら知りませんでした。

数年前にここまで感動したシャルドネにはブルゴーニュの白のトップ生産者の一人、エチエンヌ・ソゼのピュリニー・モンラッシェを当ててみました。

どちらが好きかという第一印象では7割のソムリエがAに手をあげました。おっと、私はもっと圧倒的にAに手があがるものと思っていたのに(Aがフーバーだと決めつけている)

ここで、このシャルドネに限らず、フーバーのワインを飲んだことがありますか?という質問をしてみました。そして、一人だけ、ある二つ星レストランのシェフソムリエが「うちはフランスワインしか扱わないので、飲んだことがありません」と答えました。では、今日これまでテイスティングしてみてどう思われましたかと聞いてみると彼は「正直、驚いています。ワインはフランスだと思っていますし、これからも変わらないと思いますが、今日目の前に並んだワインがドイツワインであることに衝撃を受けています」と答えました。私もフランスワイン側の人間、彼の気持ちはよくわかります。

また、このAのワインに関して、例の重鎮ソムリエがAをフーバーとし、「これまでのフーバーのシャルドネはもっと還元的なニュアンスが支配的でしたが、このワインからはそこをそれほど感じず、ちょっと戸惑いました」とコメントしました。確かに言われた通りで、私も以前に感じたあの”圧倒的な還元”のニュアンスはあまりなかったように思いました。

最終的に6割ほどのソムリエがAのワインをフーバーと解答。ドイツのシャルドネがブルゴーニュのトップドメーヌのピュリニーに並んだ瞬間でした。ただ、ブルゴーニュにはもっと上の生産者がいることも事実です。




5:ピノ・ノワール対決 2
A:ボンヌ・マール コント・ジョルジュ・ド・ヴォギュエ 2013
B:”アルテ・レーベン”シュペートブルグンダー  フーバー 2013

言わずと知れたシャンボール・ミュジニーのトップ生産者ヴォギュエ。フーバー一家と仲が良いこともあり、ユリアン氏本人がドイツから持ってきたこのボンヌ・マールは、フーバー”アルテ・レーベン”シュペートブルグンダーと価格差ということでいえば数万円の差がつくはずです。(”アルテ・レーベン”2013は参考上代10,000円、ヴォギュエ ボンヌ・マール 2013は70,000円オーバー…。ちなみにアルテ・レーベンとはフランスでいうヴィエイユ・ヴィーニュです)

対決前、ユリアン氏が「本当にヴォギュエのボンヌ・マールと飲み比べをするのか」と恐れおののいておりました。

こちらも最初にどちらが好みか挙手をお願いしました。そして、片方のワインに一人を除く全員が手を上げました。

一方は明るくピノらしい赤から紫の香り・ミネラル感がふわっと宙を舞い私たちを優しく包み込みます。もう一方は、硬く閉じこもっており、香りもほとんど取れないほどでしたが、口当たりは非常になめらかで、独特の存在感がありました。そして、この明るく開いている方に一人を除くほぼ全員が手を上げたんです。

そのワインはB:フーバー”アルテ・レーベン”シュペートブルグンダー  2013でした。

もう一度言いますが、私も含めてブラインドテイスティングでした。その上で、参加者全員がヴォギュエのボンヌ・マールを意識しながらも、Bのフーバーのワインを好みだとほぼ全員が選ぶ結果となりました。

確かに、ボンヌ・マールはガチガチでした。香りも全くといっていいほど出ておらず、ただただなめらかで強い。それでも、ワインの資質はというとAの方がより細やかな粒子を感じるかのごとく、私たちに訴えかける何かがあるように感じました。より高貴なんです。だから、いつか花開けばこのボンヌ・マールはフーバーのアルテ・レーベンの上をいくことでしょう。それがいつになるのかはわかりませんが。それでも、大阪の第一線で活躍するソムリエたちが、どちらが好みですかという質問にボンヌ・マールを差し置いて、(フーバーの)Bと答えたわけです。

私も今どちらが飲みたいかといわれれば、間違いなくフーバーです。これだけ綺麗にエレガントに開いたピノ・ノワールはブルゴーニュでもそうあるものではありません。

フーバー恐るべし。

始まる前からイイ勝負になると思っていました。ただ、ここまで完勝するとは…実は私はこっそりこうなるだろうと思っておりました。フランスワインのソムリエとしてはちょっと複雑な気持ちでもありましたが。一方でフーバーがドイツワインとしてこのようにわかりやすく評価されたことには意味があると思っております。

そして、何よりもこのセミナー、とっても楽しかったんです。ですから、この五つの対決が終わって時間を見ると16:30。あれ、13時から始めたんだよね?私は、この対決の余韻に浸る暇もなく、大慌てで職場に戻りました。



その後、上記のリベンジ企画というわけではないのですが、このフーバー醸造所のグランクリュ・ボンバッハーとボギュエのミュジニー、もう一つドイツのシュペートブルグンダーをブラインドでテイスティングする機会がありました。今回はピノ・ノワール対決、ドイツが二つとフランスが一つということだけを聞かされて。(グランクリュのミュジニー、10万円以上します。ちなみに、このボンバッハーは1万数千円です)

私は三つ並んだうち真ん中のワインが、酸とミネラル感、そしてアルコールのボリューム感のバランスが最もフランスらしいと思い、自信を持って「2番がフランス!」と答えたのですが、撃沈しました。この三つの中で絶対にこれがフランスだと思った2番こそ、フーバーのグランクリュ・ボンバッハーでした。

言い訳をするなら、ミュジニーは本当に本当に難しいワインで、大人になると絶世の美女になる可能性を秘めておりますが、幼少期は地味で洗練された感はあるものの、その内にこもった性格からなかなか良さが伝わりません。私はミュジニーを”氷の微笑”と例えるのですが、圧倒的な品と気位の高さを感じるものの、本当にこちらに振り向いてくれません。それが、ボギュエのミュジニーとなればなおさらです。

そっか、ボギュエのミュジニーなんだと思った時には時すでに遅し。いや、まさかボギュエのミュジニーが出てくるとは思わず。確かに固く固く閉じこもっており、香りも味わいもそっけないことこの上なかったんです。そして、このミュジニーから強さを感じたので、強さイコール熱感で、もしかしたらバーデンかファルツのシュペートブルグンダーかなと思ったわけです(私はブルゴーニュのピノ・ノワールよりも”暑さ”を感じます)。これまでフランスワイン一辺倒で生きてきたのに、ボギュエのミュジニーに気づかなかったのかと大いにショックを受けました。そして、フランスのピノ・ノワールを圧倒するフーバーの凄さをまた改めて感じたわけです。




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