たまに見かける金賞受賞ワインってどんなワイン?

金賞受賞ワイン!というふれ込みのワインを日本でもたまに見かけます。

私はフランスに住んでいた頃、パリで行われる農業コンクール・ワイン部門の審査員をしていました。ワイン以外にも、さまざまな農産物に関して金賞・銀賞が決められます。審査員といってもおそらく数百人いる中の一人なのですが。

このマークの貼られているワインです。→こちらのロゴをクリックするとこの農業コンクールの管理サイトに移ります。

この金賞、銀賞受賞ワインがどのように選ばれているかお伝えしたいと思います。

この農業コンクールは国際展示場・大イベント施設、日本でいう幕張メッセのようなところで開催されます。ワイン部門はその一画で行われ、会場は体育館程度の広さで4~5人掛けの丸いテーブルがおおよそ百ほど並びます。ボルドーやブルゴーニュなどのエリアごとにわけられて配置されたテーブルの上にワインボトルが20本ほど無造作に並べられています。
これらが審査対象のワインで、テーブルごとに同じ産地の同じタイプのワインを審査することになります。
22コンクール
となりのボルドー・ロゼのテーブル

審査員になるにはそれなりの経歴が必要で、事前に履歴書と勤務先などからの紹介状を提出して資格を得る必要があります。一度資格を手にすると催しの度に連絡が入り、当日どこかのテーブルに割り振られるといった流れになっていました。

審査対象のワインは全てその地方に則した全く同じボトルに瓶詰めされており、番号は振られていますが、エチケットは貼られていません。我々審査員には対象ワインの産地(ブドウ品種)しか知らされず、その他の先入観は全くない状態でテイスティングを行います。ここまではけっこう厳正な審査であると言えます。

私がアルザス・ゲヴュルツトラミネールを担当した時の話です。
目の前に並ぶ20本ほどのワイン(テーブルに並ばない分はわきのダンボールに入っています)は全て、アルザス型の緑色の瓶でした。同席した他の4人の審査員とこの20本のワインをテイスティングし、この中から金賞、銀賞を決めるというわけです。

その時の担当者の話ではアルザスから600本ほどの出品があり、そのうちの200本が選ばれてこの会場まで運ばれてきたようです。アルザスワインに関しては、この会場で審査される前に三倍の倍率を勝ち抜いてきたワイン達が目の前に並んでいたということになります。私達はその中のゲヴュルツトラミネールの担当というわけです。

テーブルごとにテイスティングが行われるのですが、最初は事前に用意されたテイスティングシートを元に黙々と20数本の試飲を進めます。ソムリエ試験ではありませんから特に時間制限はありません。

ここに並んだワインのおおまかなレベルとしては、半分のワインが中の中、あと残りがやや劣るという感じで、いわゆる日常消費ワインの範疇と言って差し支えないと思います。おそらくフランス国内で小売価格8ユーロ以内で販売されるクラスでしょう。特別良いと思うワインはありませんでした。

これは毎回感じることで、どこの産地によってということではないと思います。言い換えると、このレベルのワインの中から金賞・銀賞を決めなくてはならないということです。




一通り試飲し終えた頃、五人のうちの一人のオジサンがいつの間にか司会進行を始めていました。(そのような役割を任命されるようです。ベテランさんなのでしょう)
まず、各々が良かったと思うワインを三本づつ挙げます。それらを集計しそこから喧々諤々の審議が始まります。もちろん目の前にあるワインを飲みながら。

ワインに対する感想はまちまちで、大きくわけると、『飲みやすいから良い』チームと『メリハリがあってゲヴュルツトラミネールらしいワインが好き』チームの三人対二人にわかれました。私は後者でした。
さすがにフランス人は議論好きで、なかなか自説を変えません。しばらくの議論のあと、「では〇〇番と〇〇番を金賞にするということで良いか?」ということで決をとり、私ともう一人は反対しましたが、比較的飲みやすくクセのない、私からすると無難で面白みのない二本のワインが金賞に選ばれました。

でも、あきらめきれない反対票の男性が、「その二本が金賞ならこちらも金賞に違いない」と熱く語り、私も近い意見だったので賛成すると、では、それも金賞にしましょうとあっさりともう一本決まってしまいました。私が二番目に良いと思ったワインがこの三番目に決まった金賞ワインです。

同じように銀賞も選ばれたわけですが、こちらは確か四本だったと記憶しております。私がこの中で一番良いと感じたワインは銀賞でした。

結局20数本の中から金賞三本、銀賞四本が選ばれたわけです。声の大きな人が好むワインが多く選ばれるとも言えます。→片言のフランス語で頑張る私など太刀打ちできるわけがありません。

私達審査員はどの造り手のワインが金賞・銀賞を獲得したかという結果を知ることができません。各テーブルごとにまとめた金賞、銀賞はエチケットの番号を本部に報告しそれで終了です。後に店頭に並んだワインの見て想像するしかないのです。

アルザスに限らず金賞・銀賞受賞ワインのほとんどが無名のそれほど世間的に評価されていない生産者のワインです。こんなことを言ってはなんですが、金賞も銀賞もそれほど特筆すべきワインではありません。各テーブルから数本の受賞ワインが選ばれるわけで、全体では一回の催しで数百本、もしくは千本近い金賞・銀賞受賞ワインが世に出るということになります。このようなコンクールがパリだけでなく、マコンやその他さまざまな地方で行われているのです。

コンクールに出さなくても売れる生産者はわざわざ出品しません。特にブルゴーニュやコート・デュ・ローヌなどの小規模生産者で評価の高いところは、瓶詰め段階で全てのワインの売り先が決まっていることも珍しくありませんから。
ですから、あくまで一つの基準であって、ワインショップの広告などで見る金賞受賞ワイン!素晴らしい!美味しい!というのはちょっと違うかなと思っています。

確かにちゃんと審査は行われていますが、金賞受賞ワインはかなりた~くさん選ばれているということをお知りいただければと思います。

とはいえ、1970年代に神様・アンリ・ジャイエがコンクールに出品し、賞を貰っていた話は有名です。




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