フランスワインのテロワールについて思うこと~神に選ばれたブドウ畑 Montrachet/モンラッシェ

今日、ワインを語る上で欠かせないキーワードがこの“テロワール”。今や、どのワイン生産者も二言目にはテロワールを口にします。

さて、このテロワールを究極に表現したワインがフランス・ブルゴーニュ地方に存在します。世界最高の白ワインを産するMontrachet(モンラッシェ)とその近隣の畑です。

ブドウ畑のテロワール(生育環境)とは

テロワールとは日本語にならない難しい概念の言葉ですが、総じて「土地(土、土壌、大地)」「気候」「人的要素」を総合したブドウ造り全般の生育環境のことを指します。



ワインのテロワールを考える上でわかりやすい畑があります。ブルゴーニュ地方、ピュリニィ・モンラッシェ村とシャサーニュ・モンラッシェ村にあるグランクリュ、Chevalier-Montrachet(シュヴァリエ・モンラッシェ)、Bâtard-Montrachet(バタール・モンラッシェ)、そしてMontrachet(モンラッシェ)です。これらは最高クラスの白ワインを産する畑として世界的に有名です。

このあたりは小高い丘になっており、これらの三つの畑が斜面に順に並んでいます。最も標高の高いところにあるのがChevalier-Montrachet(シュヴァリエ・モンラッシェ)、その下にMontrachet(モンラッシェ)、さらに下部にBâtard-Montrachet(バタール・モンラッシェ)が続きます。

表土と土壌、ミネラルの関係

地球上の空気より重い物質は、高いところから低いところに至ります。表土は丘の高いところから低いところへと転がり流されるので、下部になればなるほど表土がより多く堆積します。そして、その表土の下には本来の土壌(母岩)が存在します。

表土とは土壌の最上層部のこと、風化が進んで有機物に富み、黒色を呈するのが一般的です。有機物に富んでいますから、土地が肥沃で栄養分が多く含まれます。ですから、表土が多い(厚い)肥沃な低地で栽培されたブドウから造られたワインの方が「ふくよか」になります。反対に表土が少ない(薄い)、比較的痩せた標高の高いところにある畑では、本来の土壌(母岩)の影響をより享受するため、出来上がるワインはより鉱物的なニュアンスが強くなります。平たく言えばキリっとしてミネラルが豊かということです。



標高差の違いによるワインの違い

さて、標高の高いChevalier-Montrachet(シュヴァリエ・モンラッシェ)と少し低地にあるBâtard-Montrachet(バタール・モンラッシェ)を飲み比べると、その違いは一目瞭然です。

Chevalier-Montrachet(シュヴァリエ・モンラッシェ)は、薄い表土の痩せた土壌から鋼のようなミネラルが特徴の白ワインが、加えて高地にあるため年平均気温が低く、果実の凝縮感よりも生き生きとした酸がもたらされます。

一方、Bâtard-Montrachet(バタール・モンラッシェ)は厚い表土の肥沃な土壌からふくよかな白ワインが、さらに標高が低い分気温が上がりより果実の凝縮感を感じるようになります。(こちらも素晴らしいワインですが、Chevalierに比べると)時にはやや豊満すぎて少し”もったり”した白ワインになることもあります。

そして、その二つの畑の間に鎮座するMontrachet(モンラッシェ)においては、酸やミネラル、果実味など全てが最高のバランスでもたらされます。気候や土壌、標高や日当たり、風の流れなどのさまざまな要因がブドウ(シャルドネ種)にとって究極的にまで適しているため、そのブドウから最も完成度の高い白ワインが生み出されるのです。


※モンラッシェの上部からバタール・モンラッシェを見下ろす。

これぞテロワール

ところで、標高数メートルから十数メートルの違いで、気温やその他の環境がそんなに変わるのかとお思いの方もおられるのではないでしょうか。
確かに、一日単位でしたら、例えば気温がゼロコンマ数度違うだけかもしれません。ただ、その差は一年間にするとかなりの差になります。日当たりもまた然りです。ほんの些細な標高差、畑の向き、角度によって太陽から受ける恩恵は、年間として考えると大きな差になります。
加えて、風が湿気を吹き飛ばしてくれるかどうか、地熱を蓄えることで霜が降りにくいかどうかなど、ほんの些細なことでも長いスパンで見ると大きな違いになります。
また、ブドウは気温をはじめとする全ての要因が高すぎても(強すぎても)、低すぎても(弱すぎても)良いワインにはなりません。全てがバランスよく整っていることが良い畑の条件なのです。

さらに、ここに人の手が加わります。誰もが素晴らしいと認識しているMontrachet(モンラッシェ)の畑と、例えばBâtard(バタール)よりもさらに下方にある村名AOC(原産地呼称)にすら認められない畑。この二つの畑を造り手が全く同じ考え方、予算、手間暇、愛情を持って相対するとは考えられません。

Montrachet(モンラッシェ)はシトー派の修道僧によって選ばれた畑として、実に1000年近い歴史を誇ります。シトー派以来ずっと、この地域のブドウ栽培はMontrachet(モンラッシェ)が中心であり、もし何かが起こった時には真っ先にMontrachet(モンラッシェ)に走り対処してきました。1000年もの間ずっと常に特別に扱われ続け、現在もその最高位を保ち続けているのです。

この歴史をも含めた全ての生育環境、これがテロワールです。そして、Montrachet(モンラッシェ)が神に選ばれた畑と言われる由来でもあります。

少し下からこのMontrachet(モンラッシェ)の畑を見上げると、素人目にも完璧と思わせる光輝いた場所に畑があることが見て取れます。

これらの三つのグランクリュの畑全てを持っている生産者がいますので、完全な比較テイスティングが可能です。非常に高価で生産量が少ないため、手に入るかどうかはまた別の問題ですが。



コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です